白酒とは
穀類を原料とする蒸留酒
白酒は、中国の宴席では欠かせない伝統的なお酒です。白酒の「白」は、「混じり気のない透明」や「無色で明るい」といった意味。その見た目は美しく透きとおり、アルコール度数は50度以上と高いのが特徴です。
知っていますか? 中国では白酒が主流です
中国のお酒といえば、日本では「紹興酒(シャオシンジュウ)」も有名ですが、本場では白酒の人気が圧倒的! 中国における「国産酒の生産量」において、日本でよく飲まれている紹興酒のシェアは全体の約3割。一方、白酒は全体の約7割をも占めます。中国料理と一緒にたしなむのが主流で、中国人の生活に馴染みの深いお酒です。
白酒の発展
中国各地で作られ、独自の発展を遂げた白酒
白酒は高梁(コーリャン)と呼ばれるモロコシを中心に、小麦、豆類、とうもろこし、じゃがいも、さつまいもなど様々な穀物を原料としています。中国の広大な土地では、地域によって生産条件や気候も異なるので、中国全土で特有の風味と風格をもった多種多様な白酒が生まれました。
そのおかげで、宋の時代から今日まで、白酒は中国食文化の中心的役割を果たしてきたと言えます。
白酒が発展した背景には、2つの要因があります。
- 中国料理との相性
- 「医食同源」の食文化
中国料理との相性
油の多い中国料理を食べると、口中油だらけに。そこへアルコール度数の高い白酒を飲むと、アルコールによって油は溶け流れていきます。白酒を飲むたびに口の中がさっぱりするので、油の多い料理も最後まで美味しく食べられる。よって、白酒は中国料理との相性が抜群なのです。
「医食同源」の食文化
中国人は、早くから「酒は良好な薬の溶剤」だと気がつきました。アルコールの中に薬草を入れると、薬草の成分がアルコールによって抽出、溶解されます。そのお酒は「薬酒(ヤオジュウ)」と呼ばれ、太古から数多くの中国人の健康を支えてきました。
もともと薬酒は、紹興酒などに代表される「黄酒(ホワンチュウ)」から作られていました。しかし、後にアルコール濃度の高いほうが薬草成分が抽出されると判明したため、白酒はたちまち中国全土へ広がることに。広大な面積を持つ中国は気候風土に地域特性があり、薬草や香草、珍花、珍しい果物など薬酒の資源が豊富だったため、白酒を使った薬草がより発展したと言います。
白酒の始まり
宋の時代から受け継がれてきた白酒
1980年に中国で出版された名著『中国名酒志』によると、中国の酒で最も古い銘柄は、白酒の一種である「汾酒(フェンジュウ)」です。山西省杏花村発祥の汾酒は、古くは南北朝時代(西暦420~585年)の北斉のころから生産されていました。
この頃からすでに“銘酒”として愛されていた白酒。当時はまだ蒸留技術が確立していなかったため、醸造酒として「汾清(フェンチン)」と呼ばれていました。
中国の蒸留酒に関する最初の記述は、宋代(960年~1279年)まで遡ります。南宋の都、臨安(リンアン)の地理風俗を記した随筆集『夢梁録(むりょうろく)』には、新しく造られた酒として「水晶紅白焼酒」の記述が見られ、
その味は香軟で、口に入るとさっと絶って終わる
と評されています。
舌に味が残らず、かつ香りがあって、軟らかといえば、そうアルコール度数の高くない蒸留酒とも見ることができる。ということで、宋代に蒸留酒が造られ始め、宋代には白酒が一般化したと考えられています。
白酒の地域
白酒はどの地域でよく飲まれてきたのか?
明時代の医師であり、本草学者として活躍した李時珍(1518-1593年)。彼は6年の歳月をかけて700以上の古典を調べ、自らも調査を行いながら、1900種の薬物に関する本草書『本草網目』(全52巻)を書き上げました。その中で、蒸留酒のことを「焼酒(シャオジュウ)」、「火酒(ホオジュウ)」、「阿里乞(アーリク)」と紹介しています。
『本草網目』の記述から、北方ではよく飲まれていた焼酒(白酒)も、南方ではあまり飲まれていなかったことが分かります。その名残からか、現在の中国でも南方にある福建省、広東省、広西壮族自治区、浙江省、江蘇省、台湾などでは、蒸留せず醸造してつくる黄酒がよく飲まれています。
一方、白酒は北方(山西省、吉林省、北京、貴州省、四川省、陕西省、安徽省、黒竜江省、山東省、河北省、遼寧省、内モンゴル自治区)の地域で作られています。
黄酒と白酒の地域特性は、明の時代からあまり変わっていないのかもしれません。
なぜ北方で白酒が発展し、南方で黄酒が発展したのか?
要因は大きく分けて3つあります。
1.原料
黄酒の原料は主に米と糯米。米は南の方が栽培に適している。対して、白酒の原料は麦や高梁(コーリャン)。こちらは寒い地方や山岳地帯でよく獲れる。
2.水
黄酒は水が直接の原料の一つとなり、福建省や広東省、浙江省は名水湧出の地としても有名。対して、白酒は個体発酵の形式をとるので、水は直接の原料ではない。
3.気候
北方や山岳地帯はとにかく寒いので、アルコール度数の高い酒は体を温めるのに最適であること。対して、南方は暑いので、体がかっかとする蒸留酒は合わない。
黄酒との違い
黄酒と白酒の違いのまとめ
日本人に馴染みのある黄酒(紹興酒)は、米や糯米(もちごめ)を麹(こうじ)で糖化する醸造酒です。アルコール度数は約15度。有史以前から約3000年の歴史を持つ伝統的なお酒です。
醸造酒 |
蒸留酒 |
黄酒、ビール、ワイン、日本酒 |
白酒、焼酎、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン等 |
一方、白酒は雑穀の高梁(コーリャン)や小麦、豆類、とうもろこし、じゃがいも、さつまいもなど様々な穀物を原料とし、発酵させてつくる蒸留酒です。
黄酒、白酒とも悠久の歴史の中で親しまれてきたお酒たち。ぜひ、中国料理を食べるときは、歴史の味をかみしめて乾杯してください。重みのある歴史の味と中国料理が合わさり、これまた絶世の美味となります!
こちらの記事の参考文献:https://baijiu.jp/reference